ツィゴイネルワイゼン

「ツィゴイネルワイゼン」 1980
鈴木清順監督、出演は原田芳雄、藤田敏八、大谷直子。カテゴリー分けの難しい映画である。1967年の「殺しの烙印」のせいで日活を追われた鈴木監督が10年の時を経て好き勝手に撮った幻想物語と言ったところか。もっとも鈴木監督はこの3年前に松竹の「悲愁物語」で復活を果たしているので、復帰2作目なのであるが、今作の評価が高すぎたせいか「悲愁物語」はあまり顧みられることはないようだ。今作と「陽炎座」1981、「夢二」1991を合わせて大正浪漫三部作と呼ばれる。
大正時代、士官学校の元独逸語教授である原田は自由奔放な性格で、友人のやはり独逸語教授の藤田や旅先で知り合った芸者の大谷を翻弄する。やがて帰宅した原田は大谷そっくりの妻を娶り娘も生まれるが、妻はスペイン風邪で帰らぬ人となってまう。
公開の翌年に映画館で見ているのだが、記憶していたのは冒頭のツィゴイネルワイゼンのレコードにまつわる原田と藤田のやりとりくらいで、内容はほぼ忘れていた。
タイトルにもなっている「ツィゴイネルワイゼン」のレコードは、サラサーテ自身が演奏するものなのだが、演奏の途中でサラサーテが何かをしゃべっている声が録音されている。冒頭のやりとりはこの声についてのものである。
このレコードの件についは、作家内田百閒の「サラサーテの盤」という小説を下敷きにしているらしい。
ストーリー自体は特に込み入ったところはないのだが、どう解釈するかは難しい。鈴木監督が映画会社のしがらみ無しに撮りたいものを撮っただけあって現実と幻想の入り混じる独特の感性で溢れており、強烈な印象を与える。
今作の20年後の「ピストルオペラ」ではストーリー自体が荒唐無稽になってしまっていてイメージがとっちらかってしまっている感が強いのだが、今作ではそのようなこともなく映画としての完成度は高い。
原田芳雄はいつもの原田芳雄だが、その自由奔放さと対照的に本来映画監督の藤田敏八が俗事にはあまり興味なさげなインテリをいい感じに演じていて妙にバランスが取れている。
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